中学校の合唱コンクールで審査員を務めた日
つがる市にある、K中学校の合唱コンクールに行ってきた。
弘前に住む自分が、何故につがる市の中学校を訪れたのかといえば、合唱コンクールの審査を依頼されたからだった。
長年、歌は歌ってきたが、音楽における専門知識に乏しいのは、自分が一番よく知っている。
審査されることはあっても、する側になることはあり得ない。それは自分が一番よく知っている。
20代の頃から、ずっと一緒に歌っているApioの女性メンバーMさんから依頼を受けた。K中学校は、彼女の勤め先だった。
文化祭の一環でもある合唱コンクール。その審査員がなかなか手配できないとのことだった。で、お鉢が回ってきた。
長年、生きていれば、こんなこともあるのかもしれない。それだけ、自分を年齢を重ねたということなのだろう。
同じ西津軽に育ちながら、K中学校を訪れるのは初めてだった。校舎はとても大きくキレイだった。
広い駐車場に入ると、もう一人の審査員のAさんが先に到着していた。Aさんは、以前、私が和徳小合唱部の指導に行っていた頃、伴奏者として一緒に活動していたピアニストだ。
Aさんと一緒に職員の通用口へ向かうと、校長先生とMさんが出迎えてくれた。
私たちは校長室に入り、審査の方法についての説明を受けた。
審査は「意欲」「声の響き」「表現」「ハーモニー」など4つの観点で採点をし、その合計で順位を決めていく。
声質やリズム、ハーモニーはなんとなく判断できるが、意欲や表現となるとなかなか難しい。聴く側の感性も試されそうである。
ミーティングの後は珈琲をいただきながら談笑タイム。
実は、校長先生が鯵ヶ沢出身で、しかも高校の時の二つ下の後輩だった。高校時代の話に花が咲き、和気藹々となった。
演奏会場の体育館へ向かう。中に入ると全生徒が席についていた。予想以上の生徒の多さにちょいとビビる。
審査員席は、会場のほぼ中央にあり、生徒たちに挟まれるカタチだ。校長先生、私、Aさんの順に座る。
最初に、校長先生の挨拶。そして審査員の紹介になった時、前方にいた生徒全員がいきなり振り返ってこちらを見る。かなりビビる。
1年生、2年生、3年生の順で演奏が始まった。
Mさんから事前に音源と楽譜をもらっていた。1年生と2年生の曲は、いかにも中学生が歌うという感じの合唱曲。
ほとんどが、ソプラノ、アルト、男声の3部合唱だが、楽譜を見るとけっこう難しそうだ。
しかもここ1〜2年、彼らは声を出して歌うという経験がほとんどない。みんなで声を合わせての練習も、つい最近始めたばかりらしい。
メロディ以外の音を取るのは、大変だっただろうというのは容易に想像できる。
驚いたのが、男子生徒の必死な姿だ。
自分らが中学生の頃の男子は、合唱曲を歌うというのは、なんかカッコ悪いと思っていた。全く声を出さないヤツもいた。
しかしどうだ。彼らの一生懸命な歌声と表情。むしろ声がデカすぎて、ソプラノのメロディがかき消されることも(笑)
そんな、初々しい彼らの歌声を聴いていると、審査をすることなど忘れてしまいそうになった。
そもそも歌のプロを目指すわけではない彼らの演奏を、点数で審査しなければならない…というのは辛い作業だ。
いよいよ3年生の演奏。
3年生の歌う曲は、いわゆる合唱曲ではなく、昨今の人気のジャパニーズポップスを合唱曲にしたものだ。
旋律やリズムが難しいのはもちろん、何よりも歌詞が独特で、それを歌に表現するのはかなり難易度が高い。
音源を聴いた時点では、(これは中学生には無理なんじゃないか?)と思っていた。
そんな疑心はすぐに吹っ飛んだ。彼らは、素晴らしい歌声と瑞々しい感性で難曲を歌い放った。
私は思わず、何度となくハンカチで目を覆った。
全ての演奏が終わり、私たち審査員とMさんの4人で、最終審査の作業をした。
4人で各学年の順位を決める以外に、指揮者賞、伴奏者賞なども選出した。
それにしても、賞を決めるというのは、なんとも酷な仕事である。
会場に戻り、成績発表の時間。
とその前に、審査委員長による講評があった。なんと私がその審査委員長で講評をする役目だった。
自分にとっては、これが本日一番の緊張する場面だったかもしれない。
壇上に上がると、全生徒の目が私に注がれた。2階席からは保護者の目が注がれた。
これはアンサンブルコンテストより緊張するわ〜
でも、ここで音楽的な小難しい話をしてもしょうがない。自分にそれができるわけでもない。
私はひとつだけ、彼らにお願いをした。
「自分を表現すること。是非、それをこの先もずっと続けて欲しい。それが、歌を歌うことでもいいし、絵を描くことでもいいし、小説を書くことでもいい。自分を表現すること。それをこれからもずっと続けてください」
成績発表。
3年生の最優秀賞が発表されると、「ウォー!ヤッター!」「キャー!」という歓声が上がった。
彼らの嬉しそうな表情を目にし、私は再び目頭が熱くなった。

プログラムより
彼らが、これから先の人生において、「自分を表現する」ことを続けてくれたとき、この日の合唱コンクールを思い出してくれたら嬉しいな。
そして何よりも、決して長くはない自分の人生においても、ちゃんと「自分を表現する」ことをしなきゃ。
そう思わせてくれた一日であった。
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