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2022-11-13

ツール・ド・ツガル / 追悼ライド『暴風の竜泊ライン ①』


 

(あの日も風が凄かったな)

道の駅「十三湖高原」に車を停め、北に向けてロードを走らせた。海が近づくにつれ、日本海からの向い風の音が強くなる。風力発電の風車が、ゴーゴーと音を立てて回っていた。

坂を下りきり、脇元という集落に入ると、視界の向こうに権現崎が見えてくる。青空は見えているが、海は荒れていた。

 

脇元海岸

 

9年前の11月。私は妻と一緒に、この道を走っていた。

弘前から外ケ浜町へ荒涼とした北津軽を走る国道339号線。とくに十三湖から龍飛崎にかけては「竜泊ライン」という名で知られる。

昨夏、妻が亡くなってから、かつて一緒に走った路を独り走っていたが、まだ走れていないルートが二つ残っていた。そのひとつが「竜泊ライン」だった。

 

脇元海岸を過ぎると、長い坂に差し掛かる。

「竜泊ライン」といえば、この国道の最高地点である「眺瞰台(ちょうかんだい)」へ上る激坂がチャリダーの間ではよく知られる。

しかし「竜泊ライン」には、この激坂に辿り着くまでの間にいくつもの峠があるのだ。標高100m前後の坂を4〜5度ほど越えなければならない。

その幾つかのプチクライムが、知らぬ間に脚のチカラを奪っていく。

そして、この海からの強い風だ。

 

海の景色を離れ、しばらく山間の路を走る。

紅葉が終わりかけた山々を左右に見ながら走る。

 

山を越え下りきると、周りの景色に不釣り合いなホームセンターがいきなり現れた。小泊の街に辿り着いた目印だ。

コンビニが現れ、信号のある交差点を過ぎると、すぐに小泊の街中に入る。

私は、一軒の食堂の前にロードを停めた。

 

「ら〜めん 一番亭」

 

走ってまだ数十分しか経っていなかったが、昼飯をとることにする。

食えるチャンスがあるところで食っておかないと、後で後悔するハメになる。

じつは「やよい寿司」という寿司屋で食べたかった。コスパがよく美味いらしい。だが、行ってみたら営業時間外だった。

 

「一番亭」には先客が一人だけだったので、私の注文した「中華そば」はすぐに食うことができた。

田舎の食堂にしては(と言っては失礼だが)、なかなか見た目がオシャレな「中華そば」だ。

 

「中華そば」

少しだけ脂が浮くスープに、細めのメンマと大きいチャーシュー。

スープを一口飲むと、おっ!あっさりと思いきや、けっこう塩っ気がある。やはり北津軽は、しょっぱ口なのか。

麺は、チュルチュルとした細麺。

全体にインパクトはないけど、大きいチャーシューは美味かったな。

 

塩分と水分を補給するほど走ってはいなかったが、とりあえず前補給をして再び「竜泊ライン」へ。

小泊を出ると、またすぐに峠道に入る。

同じような光景を何度も見たような気持ちになりながら坂を上る。

坂を上りきり、やがて下りきると、再び海の風景が現れる。

このコースはデジャビュの繰り返しだ。

 

しかし、これまでの海の風景とは少し違い、大きな砂浜の海岸が姿を見せる。「折腰内」と呼ばれる海水浴場だ。

「ポントマリ」という道の駅もあり、夏休みはレジャー客で賑わう海岸。

 

「ポントマリ」

 

駐車場には、車が数台停まっているだけだった。

少し前のジャパニーズポップスが、もの悲しげに流れている。

やはり、この時期に訪れる人はほとんどいないのだろう。

ここの道の駅は、冬期間は閉鎖する。

 

この道の駅だけではない。

今走っている国道339号線も、ここから少し先の「坂本台」から「竜飛岬」にかけての道が、冬の間は通行止めとなる。

弘前を出るときに、念のため「みち情報」で調べてみたら「11月15日から通行止め」とあった。タイミング的にはギリギリだった。

 

「ポントマリ」を出発すると、しばらくは延々と海岸沿いを走る。

海岸沿いとはいえ、先ほどまでの峠道と同じようなアップダウンがあり、なかなかキツい。中には勾配10%ほどの坂もある。

海からの風が、まともに身体に吹き付ける。最近まともに走れていない身体に、坂と風は堪える。

しかし、日本海の風景は、これ以上ないほど美しい姿を見せていた。

 

竜泊ラインから望む日本海

 

9年前のあの日も、こうして日本海を見たのだろうか。

記憶は曖昧になっていた。

ただ、暴風が吹いていたのだけは、はっきりと憶えていた。

 

海岸沿いをひたすら走る。

やがて、あの場所が見えてきた。

あの日、この「竜泊ライン」を走り、妻を撮った唯一の場所。

 

 

2013年11月の「七つ滝」

 

2022年11月の「七つ滝」

 

私は、彼女が立っていたはずの場所に、少しの間だけ、両手を置いた。

 

あの日、「竜泊ライン」は暴風が吹いていた。

あの日、「眺瞰台」を目指して、二人は「七つ滝」を出発した。

 

 


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