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2022-11-20

ツール・ド・ツガル / 追悼ライド『暴風の竜泊ライン ②』


 

七つ滝を出発し、「竜泊ライン」の最高地点「眺瞰台」を目指す。

その最高地点を目指す手前で、「坂本台」という少し高台になったところまで上らねばならない。

その場所にはゲートがあり、冬場になるとそのゲートは閉じられる。故に、冬の龍飛崎を訪れるには、小国峠を上り津軽今別駅ルートを通るか、平舘海岸の方からぐるっと今別へと回るしかない。

 

「坂本台」に着くと、一人の老人が車を停め、日本海を眺めていた。

どんなことを想いながら、荒涼とした海を眺めているのだろうか。

私は少しだけ気になったが、そのまま黙々と老人の後ろを走り過ぎた。

 

「坂本台」を過ぎると、路は一気に下る。

「眺瞰台」へと向かう激坂を前に、一気に下る。この下りは余計だ。激坂の距離が、その分長くなるだけだ。

坂を下りきると、いよいよ「眺瞰台」へと上る九十九折の激坂が始まる。

 

……………………………………………………….

 

あの日、妻と私は、暴風が吹き荒れる中、この坂を上り始めた。

妻は、酸ヶ湯温泉や十和田湖御鼻部山へ向かう激坂を上ったことはあったが、こんな強風のヒルクライムは初めてだった。

いや、私自身も初めて体験する暴風クライムだった。

 

九十九折の坂は、山側へと向かうときは海からの風が身体を押してくれる。

しかし、海側へと90度ターンした途端、身体は海からの暴風をまともに受け、ロードは全く前へ進まない。

必死で脚を回すもスピードがゼロになり、そのまま立ちゴケしてしまいそうになる。

相当の時間を要してターンをすると、さっきまでが嘘のようにカラダは坂を楽に上っていく。

しかし、再びターンをすると、これでもかと風の怪獣が二人を襲ってきた。

 

「もお、無理ー!進まない!」 妻が叫ぶ。

「無理だな。戻るべし」 私は返した。

二人は諦めて、少しだけ上った九十九折を引き返した。

暴風の向かい風は、下り坂でもロードが止まりそうになるほどであった。

 

……………………………………………………….

 

リベンジのつもりではなかったが、今回は「眺瞰台」まで上りきると決めていた。

どんなに正面から暴風を受けても、上りきると決めていた。

 

風は強いが、あの日に比べると空には青い色が覗いている。

帰りのことも考えると、脚に負担をかけすぎるのは良くない。

どうせ、誰とも競っているわけでもないし、誰かが見ているわけでもなかった。

実際、この道を走る車はほとんどなかった。

 

ゆっくりではあったが、九十九折をほとんど止まることなく上ることができた。

九十九折の最後のカーブあたりに来ると、視界の遥か向こう、山の頂に小さな白い建物が見えた。

 

「眺瞰台」

 

「竜泊ライン」の最高地点が見えた。

距離にすれば、さほどでもないように見えるが、その高さはまだまだ上の方にある。

九十九折のカーブが終わると、道はゆるく長いカーブを描きながら、山の中へ入っていく。

 

ふと、気づいた。

無風になっていた。あれほど吹き荒れていた暴風がピタリと止み、茶に変色した周りの木々たちは静かに立っている。

(なにかのチカラでも働いてるかな…?)

などと思いながら、私は少しニヤニヤしながら脚を回した。腿はすでに限界に近づきつつあったが顔はニヤけていた。

 

路の傍が一部崩落している箇所があった。おそらく、あの8月の豪雨によるものだろう。

片側通行になっていたが、すれ違う車があるはずもなく、私は難なく崩落箇所を通り過ぎて頂へ向かって上り続けた。

 

「眺瞰台まで400m」の標識。

400mとはなんとも中途半端な数字だが、400mとなればもうあと少し。

気持ちがハヤることはなく、ゆっくりと脚を回す。

 

眺瞰台より望む日本海

 

なんとか上りきった。

ゆっくりではあったが、決めていたとおりに上りきった。

雲の隙間から、いくつもの光芒が海に向かって降りていた。

 

北のほうを見ると、龍飛崎の灯台が見えた。その先には北海道が見える。

(龍飛まで行ってみようか…)ふとそんな思いが過ぎったが、帰れなくなるからヤメておこう。

 

龍飛崎と北海道

 

少しの間だけ、展望台のベンチでぼおっと休んでいた。

思ったほどの達成感があるわけでもなかったが、すべき義務を果たしたような思いはあった。

 

そんなに名残惜しい気持ちもなく、私は来た路を下り始めた。

数十分もかけて上った路を、わずか数分で下りきった。

 

折腰内が近づくにつれ、空は赤くなり始めていた。

十三湖が近づく頃には、空はすでに暮れていた。

 

 

昼は狂ったように回り続けていた風車が、小さく音を立てて回っていた。

 

 

 

 


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