「隠岐彩夏」を聴く 〜弘前高等学校 創立百四十年記念コンサート〜
弘前市民会館の客席は多くの観客で埋まっていた。
この日、弘前高校の創立140年を記念するコンサートが開催された。
ヴァイオリン(矢部達哉)、ピアノ(横山幸雄)、ソプラノ(隠岐彩夏)、メゾソプラノ(清水華澄)の4人からなる『三島せせらぎアンサンブル』の演奏である。
プロの演奏会に足を運ぶのは随分と久しぶりだった。
この日の演奏会を心待ちにしていたのには理由があった。それはソプラノの隠岐彩夏さんが本県の出身であり、五所川原高校音楽部の後輩だったからである。
もちろん隠岐さんは私よりも遥かに年下なので、何かしらの交流があったわけではなかったが、Facebookを通じて彼女の活躍ぶりは同じ高校の音楽部出身として誇らしく思っていた。
自分のような者が、プロの演奏を語るのはあまりに畏れ多い。ここで音楽的なことを書くのはやめておこう。
あえて言わせてもらえれば、とにかく「素晴らしかった」「感動した」「泣いてしまった」…という小学2年生くらいの言葉しか思い浮かばない。
それくらい素晴らしい演奏会だったのだ。
ヴァイオリンとピアノのデュオに、ここまで惹きつけられたことはなかったように思う。
ストラディバリウスの生の音色を初めて目の前で聴いた。美しく柔らかい、聴く人を包みこむような音色だった。
メゾソプラノの清水さんは、声、歌唱法、ビジュアル、すべてにおいてゴージャス。
クラシックを歌う日本人アーティストで、これほど豪華な佇まいを見せる人はそういないのではないのだろうか。とにかく圧倒された。
そして我らがソプラノ隠岐彩夏の歌声は、本当に素晴らしかった。
低音から高音までしっかりと響きながらも、柔らかく美しい艶があった。そして華やかだった。
それは、彼女の素晴らしい声はもちろん、「周りにいる人を幸せな気持ちにさせる」という華やかさを彼女自身が持っているからだろう。
演奏が終わると、会場は盛大で暖かい拍手に溢れ、すべての人が幸せな気持ちに包まれていた。
ロビーに出ると、五所川原高校音楽部の先輩や後輩の顔があった。皆の顔は一様に嬉しそうだった。
そして、皆の手にはロビーで販売されていた隠岐さんのCDがあった。
スーパースターが故郷に凱旋すると、いきなり親戚が増えるとはよく言われるが、我々は完全に親戚のオジさんと化していた。
演奏を終え、ロビーに出てきた隠岐さんを、多くの知り合いの方が囲み、順番に記念写真を撮っていた。
その様子を親戚のオジさんたちはずーっと眺めていた。
ほとんどのお客さんが帰途につき、駐車場の係の方も帰る準備をしていたが、我々は誰一人として焦ってはいなかった。
だって、親戚のオジさんなのだから。
すべてのお客さんに挨拶を終えた隠岐さんは、最後に我々のところに笑顔で来てくれた。
そして、皆が手にしているCDにサインをしてくれた。
最後にパチリ。
オジさんたちは、誰もが幸せそうな少年の顔をしていた。
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