【 学生街の喫茶店 】 BLUE BLUE KANDA / 欧風カレーBondy
東京・神田といえば、かつては学生の街というイメージ。
今はどうなのだろう。
30数年前、仙台で浪人生活を送っていた私は、洋服好きもたたって東京に強い憧れを抱いていた。
実家はまったく裕福ではなかったので、進む道は国立の大学しかない。
正直、予備校に行かせるのも経済的にそうとう厳しかったと思う。
世間知らずのジャイゴわらしは、そんなことはまるで頭になく、のほほんと都会での生活に思いを馳せていた。
私立に行くお金はないとわかっていても、なんとなく入学試験だけは受けてみることにした。
青学や立教の、あの蔦の絡まるお洒落なミッション系の大学に憧れてはいたが、どう考えても無理そうだったので、明治と法政を受けた。
自分なりには手応えがあったが、結局どちらも落ちた。
本命?の弘前大学にはなんとか受かり、結局ジャイゴわらしは、鰺ヶ沢よりは都会の弘前で学生生活を送ることになった。
あのとき、弘前大学に受からず、明治大とかに受かっていたらどうしたのだろう。
「バイトするから!」とか親に懇願して東京暮らしをしたのだろうか。
そうだとしたら、神田の街などをプラプラしたのであろうか。
東京には、月に一度くらいのペースで出張に出る。取引先メーカーはほとんど決まったエリアにある。
渋谷・原宿・青山界隈。
代官山・恵比寿界隈。
この二つ。
だから出張に出ると、このエリアを行き来して終わることがほとんどである。
この仕事をして30年以上になるが、この度初めて、神田方面に足を運んだ。
しかも神田エリアの中でも、古本屋などが立ち並ぶ「神保町」
「神田・神保町」という響きからは、古くからの学生の街で、レトロな佇まいを勝手にイメージしていた。
都営三田線「神保町駅」で下車し、改札を抜け、外に出てみると。
やはりそこは東京であった。
片側3車線の大きな交差点。
交差点の角には、よく見る紳士服のチェーン店。
なんとなく気が抜け、「そうだよな、別にタイムスリップしたわけでもないし」と思いながら、目的地に向かって歩く。
それでも、一本通りを入ると、いきなり昔からの建物が顔を出す。
レトロというのとは少し違って、昔ながらに長く商売を続けている生活感というか。
そんな空気が流れていた。
しばらく歩くと、そのお店はあった。

「 BLUE BLUE KANDA 」
自分が勤め始めた頃からの取引先でもある「聖林公司」の新しいSHOPである。
決して広くはない和の空間に、僕らが学生だった頃に憧れたアイビースタイルがギュっとつまっていた。
しかしよく見ると、それはかつてのアイビースタイルではなく「聖林公司」のフィルターを通した「神田スタイル」なるものが体現された店だった。
お店のスタッフに挨拶すると、すでに営業のSさんから連絡が入っていたらしく、快く写真撮影のお許しもいただいた。
弘前の老舗煎餅店の手焼き煎餅のお土産を渡すと、偶然にもスタッフの一人の方が青森出身ということで、話も盛り上がる。
そういえば、
昼の飛行機だったので、昼御飯がまだだった。
事前に営業のSさんに、神保町で美味しいラーメン屋さんを訊いていた。ラーメンも有名なお店はあるらしいが、どうやら神保町はカレー屋さんが有名らしい。
「BLUE BLUE KANDA」の近くに「欧風カレーペルソナ」という有名なカレー屋があるのだが、昼の営業は15時まで。時計を見たら5分過ぎていた。
お店のスタッフの方に他に良さそうなカレー屋を訊ねると、「Bondy」という店を紹介してくれた。
地図を見ると、5〜6分で行けそうだ。
荷物をお店に預かってもらい、「Bondy」へ。
先ほどの大きな交差点を渡ると、古本屋が並ぶ。その何軒かある古本屋の2階に「Bondy」はあった。

「 Bondy 」
15時過ぎだから、空いているかなと思いきや、テーブル席はほぼ満席であった。
かろうじてカウンターが空いていた。
メニューの一番上にあるビーフカレーを注文した。1480円と結構なお値段。
トッピングの茹でたジャガイモ2個が先にきた。
ジャガイモだけで食べてもいいし、カレーと一緒に食べてもいいとのこと。私はカレーを待った。
程なくしてカレーもきた。
辛口で頼んだが、味はフルーティというかココナツの香りというか、やはりインド系というよりは欧風の味である。
角切りにされたビーフがゴロゴロ入っていた。
私が食べている間にも、次々お客さんがやってきて、入り口の前に行列を作っていた。
おなかも満足し、どっぷりと汗をかいて、「Bondy」を後にした。
帰りがけ、何軒かの古本屋を覗いてみた。
なんとなく古本というと、安く売っているイメージもあったのだが、ここ神保町は「古本」がブランドになっているようで、いわゆる貴重な「古書」だったり、本が「資料」として売られているようだ。
たまたま覗いたお店では、ちょっと昔の「ポパイ」や「ブルータス」を売っていた。
そんなに大昔のもではないのだが、驚いたことに1080円の値段が付いていた。
もともと売っていた値段の倍であるが、業界の人が資料として購入するには高くないのかもしれない。
「BLUE BLUE KANDA」に戻り、スタッフ方に挨拶をして、渋谷方面に向かおうとしたのだが…
ちょっと気になる店があった。
営業のSさんがくれたメッセージに「喫茶さぼうる」というのがあった。
なんとも変わったネーミングだったので、携帯でちょっと検索してみたら、どうやら神保町で60年も続いている老舗の喫茶店らしいのだ。
場所を調べてみると、地下鉄入口のすぐ裏手だった。滅多に来ることのない神保町だし、せっかくだから行ってみることにした。
大通りから一本裏に入ると、まさにタイムスリップしたかのような路地が現れた。
そして細い通りの中に、なぜか大木があり、その大木をまるで傘のようにして「喫茶さぼうる」はあった。
まるで東南アジアのバラックのような佇まい。
店内に入ると、そこはまさに異国というか、異質な空間だった。
店内は薄暗く雑多で、南の国のお面がいたるところに飾られてあるけれど、日本のどっかの提灯らしきものもあったり。
客は、見る限り、学生というよりは社会人が多い。店員も結構多くいて、カウンターの中に3人もいた。オーダーを取りに回っている店員さんもどことなく不思議な感じもする。
テーブルと椅子は小さく。煙草を吸っている人もたくさんいた。
もう十数年も前に煙草をやめていた自分にとっては、あまり良い空気ではなかったが、コーヒーを頼んでしばしこの「空気」を味わうことにした。
「学生街の喫茶店」といえば、もちろん「ガロ」である。
私が小学校6年生の頃にヒットした、フォークのような歌謡曲のような独特な歌で、「ガロ」の3人も長髪、サングラスにラッパズボンもヒッピーな感じ。
子供心に東京といえば「ガロ」が歌う「学生街の喫茶店」がイメージであった。
「喫茶さぼうる」は、自分が勝手に思い描いていた、古き良き「学生街の喫茶店」と趣は少々違っていたが、40〜50年前は神田・神保町界隈の学生で賑わっていたのであろう。
珈琲を飲み終え、煙い店内をあとにした。

大通りの交差点にも古くからの本屋さんがあった
初めて訪れた神保町の喫茶店であったが、なぜかノスタルジックな気分に浸りながら、いつも通りの展示会のある渋谷方面に向かった。
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