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2019-11-19

指揮者デビュー 〜 【 弘前商工会議所青年部 創立30周年記念大会 】にて


 

先月のこと。合唱部顧問のH先生から電話があった。

「11月の16日、空いていますか?」

まだ仕事のシフトは決めていなかったが、特別な予定はなかった。

「たぶん大丈夫だと思いますが…」

「実は、〇〇幼稚園から、合唱部の演奏依頼があったのですが、ちょうどその日は私用がありまして。もしよければ、指揮をお願いできませんか?」というものだった。

 

二年ほど前のブログでも、「初めての指揮」というのを書いていた。しかし、そのときは合唱部での練習のときにした指揮のことである。

過去に、数人の歌仲間の前で、あるいは職場の忘年会のときになど、リズムを軽く合わせるくらいの指揮はしたことがあったが、大勢の聴衆の前で振ったことは一度もない。

しかし、幼稚園の子どもたちの前でということであれば、楽しく演奏すればなんとかやれるだろう…と二つ返事でOKした。

 

後日、学校に担当者が来てくださるということで、私も同席した。夕方の職員室で顧問の先生と一緒に待っていると、幼稚園の園長先生と、市内のホテルのオーナーが一緒に来校された。

ん?幼稚園の園長とホテルのオーナー?と思ったが、よくよく聞いてみると、お二方とも「弘前商工会議所青年部」のスタッフとして依頼に来られたとのことだった。

どうやら大きな勘違いをしていたようだった。合唱部の子どもたちが「幼稚園児たちの前で」で歌うのではなく、「商工会議所青年部の創立30周年を祝う式典」で歌ってほしい…というものだった。しかも、式典のオープニングセレモニーとして。

私は、その式典の内容を聞いているうちに変な汗が出てくるのを感じた。県や市のお偉いさん、青年部の歴代会長、市内の有名企業のオーナー、などがずらりと並ぶのだそうだ。

そのような式典で、自分が指揮をするのだそうだ。初めての指揮を… 

 

「すご〜い!キレ〜い!」

はしゃぎながら、しかし少し緊張した表情で、ホテルの階段を子どもたちが上る。 アートホテル弘前シティ3階の式典会場と同じフロアに、合唱部の控え室があった。

控え室で、用意されていたおにぎりを子どもたちが食べている間に、私は会場の下見に行った。会場では青年部のスタッフが忙しそうにステージやテーブルのセッティングをしていた。多くの知った顔があった。

 

鰺ヶ沢出身だった自分にとって、もともと弘前に生まれ育った人たちの集まりに加わるのは、どこか抵抗があった。いや抵抗というカッコ良いものではなく、ただの劣等感だろうか。

多くの友達と飲んで騒ぐのも好きだったが、どちらかといえば一人で黙々と何かをやるのが好きな人間だった。

洋服は好きだったが、趣向はマイノリティ。他の誰もが持っていないものが欲しかったし、他の誰もがしない着こなしをするのが好きだった。

写真も、多くの仲間と一緒に撮影会をするよりは、一人で彷徨いながら撮る方が好きだったし、ロードバイクも一人でのんびり走る方が好きだった(こればかりは走りが遅いからという別の理由によるものだ)。

歌に関しては、さすがにソロで歌うという実力は持ち合わせていないが、でも大人数の合唱団よりは、10人くらいのアンサンブルで歌う方が心地よかった。

 

それでも、弘前で洋服屋として三十年以上も働いていると、沢山の知り合いができる。洋服が好きな人だけではない。仕事柄、また立場上、身につけるものに気を使わないといけないというお客様もいらっしゃる。

「弘前商工会議所」は、仕事でお世話になることはあるが、個人的に携わったことはほとんどなかった。だが会議所の、特に「青年部」には、日頃からお世話になっている知り合いが多数いた。

 

会場の下見をしていると、多くの知り合いの方が声をかけてくれた。

「今日の演奏、頑張ってください!」「楽しみにしてますよ〜!」

 

「創立30周年の記念すべきオープニングにふさわしい、元気一杯、夢と希望に満ちたスペシャルゲストをお招きしております。弘前市立和徳小学校合唱部の皆様です!どうぞ大きな拍手でお迎えください。」

司会のアナウンスで子どもたちが、そして自分が最後に入場した。司会を務める古賀さんは、昨年の「三大テノールコンサート」で知り合ったお方だ。

「和徳小合唱部は県内屈指の名門で、本年8月に行われた全日本合唱コンクール 青森県大会にて金賞を受賞しました」という古賀さんの言葉で、会場が「おお〜!」と歓声に沸く。

その歓声のおかげで、少し緊張がほぐれた。静まり返ったホールほどやりにくいものはない。

 

子どもたちによる曲紹介、指揮者、ピアニストの紹介が終わり、私は中央に立ち、お辞儀をした。私の目の前にあるテーブルには、国会議員や県会議員の方々。周りのテーブルには歴代の青年部会長や、弘前の有名企業のオーナーの方々…

私は一礼をし、子どもたちの方に顔を向けた。いつもの笑顔が目の前にあった。私はスーっと両手を上げ、そして振りおろした。指揮者としての初めての音がホールに鳴り響いた。

 

南直之進氏 撮影

1曲目はコンクールの課題曲として歌った「わたしはこねこ」 変則的なリズムで指揮は難しかったけれど、演奏が終わると大きな拍手と歓声が沸き上がった。

2曲目は「翼をください」 そして最後の3曲目は、今もっとも人気のある「パプリカ」 

子どもたちが、ノリノリの振り付けで元気に「パプリカ」を歌い上げると、会場は一気に盛り上がった。そして、演奏が終わるとあちらこちらから「アンコール!アンコール!」の声。それは、私の知人や友人が声を上げてくれたものだった。

式典のオープニングでの演奏。なるべくなら会場を盛り上げて、乾杯に繋げたいと思っていた。会場にいらした知人や友人の皆さんが、そんな私たちの思いを汲んでくれたのだ。

最後に20秒ほどの短いハーモニーで締めくくり、大きなあたたかい拍手の中、私たちは会場をあとにした。

 

自宅に戻ると、私の背中はガチガチに凝り固まっていた。リラックスして指揮をしていたつもりだったが、相当緊張していたのだろう。

ピロン♫とメッセージ音が鳴った。青年部の会長を歴任された前田さんからだった。

「ありがとうございました!!素晴らしい演出!さすがでした! おじさん達みんな、心が洗われたと、喜んでました! 花を添えていただきありがとうございました!^^」

その後も、数人の知り合いからメッセージが届いた。どれもが「会場が最高に盛り上がりました!」「子どもたちの笑顔と歌声が素晴らしかった!」「最高のオープニング!」と、嬉しいメッセージばかりだった。

もちろん、多少のお世辞はあろうが、凝り固まった背中がほぐれていくような気分になった。

初めてのヘタクソな指揮ではあったが、今回も笑顔の子どもたち、そして会場にいらしたノリノリの皆さんに助けられ、オッさんの指揮者デビューは幕を閉じたのであった。

ほんとうに、ありがとうございました。プシュ!


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