toggle
2020-01-24

高円寺の思い出 / 『NEW-BURG(ニューバーグ)』のダブルメキシカン


 

36〜37年ほど前、大学生だった私は、夏や冬の長期の休みになると必ず東京へ行った。

それは決して優雅なものなく、周遊券を使い寝台のない急行列車で十数時間かけての列車旅だった。それでも、それを全く苦とは思わなかった。

当時、強烈に憧れを抱いていた東京のインポートショップ(その頃はまだセレクトショップという言葉はなかった)巡りができると思えば、急行に揺られることさえ楽しめた。

 

その頃、東京には仲の良い友達が二人住んでいた。一人は故郷鰺ヶ沢の幼馴染みのコウキ。そしてコウキの弘前高校時代の友達、H山くん。

H山くんは、百石町展示館の副館長でもあり、写真展でいつもお世話になっているが、こうして考えてみれば、もう40年近いお付き合いになるのだ。

二人とも中央線沿線に住んでいた。私が泊まるのは高円寺に住んでいたコウキのアパートだった。彼のアパートには、H山くんだけでなく、東京に住んでいた弘高時代の友達がいつも集まっていた。

私は弘高出身ではなかったが、いつの間にか彼らと仲良くなり、高円寺でよく麻雀もやった。

二人とも洋服が好きだったが、特にH山くんはお洒落で、洋服の知識も豊富だった。東京のショップのこともいろいろと教えてくれた。

DCブランドもかなり流行っていたが、私が好んで回ったのは「ビームス」や「ミウラ&サンズ」などのインポートショップ。「フレンチアーミーネイビーサープラス」や「シティライト」など、ヨーロッパのミリタリー物などを扱っている店だった。

「シェビニオン」や「リベルト」を売っている「ヌヌシュ」にも行ったが、貧乏学生には買える値段ではなかった。

東京には5日くらい滞在し、毎日のように渋谷や原宿、代官山の店を巡り回った。ネットのない時代であるから、雑誌の切り抜きを片手に道を歩く。自分の足で店を探し当てたときの感動、あれは今の時代では味わえないことだと思う。

 

 

そんな数日の東京暮らしの起点となっていた高円寺という街。住んでいたわけではないが、私にとっては懐かしい思い出の詰まった街だった。

 

先日、出張で東京に行ったとき、18時くらいに仕事を終えることができたので高円寺に行ってみることにした。何十年ぶりだろうか。

昨今、高円寺は「古着の街」として知られる。あの頃はまだそのような印象はなかったが、90年台後半から多くの古着屋が軒を並べるようになったらしい。

そんな街の様子を見てみたかった。

高円寺ルック

 

南口を出る。「高円寺パル」というアーケード街があったのはよく覚えているが、30数年経った今でもそのアーケード街はあった。そして、その通りはそのまま「高円寺ルック」という商店街に続いている。

コウキのアパートは「高円寺ルック」の通りから入ったところにあった…ような記憶がある。さすがに30年も経ち、通りに並ぶ店も様変わりしていたが雰囲気は当時のそのままだった。

なるほど「古着の街」と言われるだけあって、通りにはたくさんの古着屋が並んでいる。少し路地を入ると、さらにマニアックな店がある。

バーバリーやアクアスキュータムのヴィンテージを売る店。セリーヌやサンローランの古着を売る店。フランスの古いワークウェアを売る店。

 

「anemone」 バーバリーのヴィンテージが豊富

 

古着といえばアメリカンヴィンテージの店が多いのかと思いきや、ありとあらゆるジャンルの古着が扱われている。

自分がかつて気に入って買っていたようなブランドが、今ではもはやヴィンテージとして売られているのだ。なんとも言えない気持ちになるが、それだけ自分も年を重ねたということか。

30数年前に歩いた通りを彷徨いながら、そして30数年前に着たであろう洋服たちを目にしながら高円寺の街を1時間ほど歩いた。

 

実は、高円寺を訪れた目的はもうひとつあった。コウキのアパートに泊まっていたあの頃、よく行っていた食堂があった。

ハンバーグが美味しい店だったが、名前はとっくに忘れていた。ネットで検索してみると、その店と思われるハンバーグ屋が高円寺にまだ存在しているらしい。

「高円寺ルック」通りにあると記憶していたが、ネットでの情報を見ると北口のようだった。JRの高架下をくぐり、北口に並ぶ飲食街を歩いてみた。

すると、その店はいきなり現れた。

 

『NEW-BURG』

ハンバーグステーキ専門店『NEW-BURG(ニューバーグ)』

店頭のメニューに「ダブルメキシカン」という文字を見て、30数年前の記憶がブワ〜と蘇った。私は迷わずに店に入り、「ダブルメキシカン」を注文した。

店内は狭く、10人ほどで満席になりそうなカウンターがある。少しアメリカンな作りは、オープン当時は目新しい内装だったのだろう。だから『NEW-BURG』という名前だったのだろうが、もはや『OLD-BURG』と言ってもいいような店の趣。

 

懐かしいプラスチックの食券

  

ダブルメキシカン

 

少し辛めのメキシカンソースのハンバーグが2枚、目玉焼き、スイートコーンとスパゲティ、ライスと味噌汁。これで710円。

30数年前は、おそらく400円くらいだったと思うが、今の東京でこの値段は驚くほど安い。

ほんのりと辛味のあるソース。(あ〜そうだ。こんな味だった) 味の記憶は視覚や聴覚のそれよりもフラッシュバックが強い。脳の奥底に消されずに眠っている。

肉汁が溢れ出るような分厚いハンバーグではない。昭和のハンバーグだ。でもなんとも言えず美味いのだ。

(30年以上も前に、よくここに来てたんですよ)と言おうかなと思ったが、周りに数人の客がいたのでやめた。

「ごちそうさまでした!」

それだけ言って店を出た。710円のディナーだったが、腹だけでなく心も満たされて、私は高円寺の駅に向かった。

 

ハーバーグステーキ専門店『NEW-BURG』

 東京都 杉並区 高円寺北 3-1-14 JR中央線【高円寺駅】北口徒歩2分 

 

 


関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。