最後の「緑のおじさん」
「おはようございます」
合唱部の3年生の女の子が笑顔で挨拶をくれた。彼女はアルトの端っこにいて、いつも豊かな表情で歌っている。
「いってらっしゃ〜い」
彼女はマスクをしていたが、三日月の目が笑顔になっていることを教えてくれる。
緑のおばさんが、「緑のおばさん」を辞めてから2年ほどになる。その後は、父兄の方々が代わる代わる「緑のおばさん」や「緑のおじさん」として交差点に立った。
私は春と冬、年に2回、交差点で旗振りを務めた。一昨年は11月だったので、正確に言えば冬ではない。が、その日は大雪だった。
昨年は12月だったが、なんということかその日も大雪だった。
2年続けて、旗を振るだけではなくスコップも振り回すことになった。
この1月、横断歩道には全く雪がなかった。
娘も6年生になった。春からは中学生になる。
私の「緑のおじさん」もこれで最後。
「おはようございます!」
向かいのコンビニの方から、またまた合唱部の3年生が二人仲良く横断歩道を渡ってきた。
挨拶はしたものの、言葉は少なめだ。練習に顔を出すとキャッキャとちょっかいを出してくるが、朝一はそんなテンションではないのだろう。
合唱部のボイストレーニングに携わるようになったおかげで、多くの子どもたちと仲良くなることができた。そのおかげで、横断歩道で旗を振るのも全く億劫ではない。むしろ朝から元気をもらえる。
7時40分を過ぎた。あと10分ほどだ。
いつもなら娘が走ってくる時間だった。が、今日は来ない。
娘はインフルエンザで学校を休んでいた。
最後の旗振りで娘の顔を見れないのは残念だったが、どうやら学校でもインフルエンザが流行っているらしい。5年生は学級閉鎖と聞いている。どうりで登校してくる子どもが少ないはずだ。

毎日のように、子どもたちが渡る横断歩道。
毎日のように、ビュンビュンと車が通り過ぎる横断歩道。
これからも、毎日のように誰かが立ってくれる横断歩道。
7時50分を過ぎた。
私は、緑色の旗をクルクルと丸めて袋にしまいこみ、最後の「緑のおじさん」の役目を終えた。
これからも、事故のない横断歩道でありますように。
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