ティッシュまみれの夜
娘と嫁さんが友達のところに行ってるので、一人でワインを飲みながら、今宵も懲りずにYouTubeを観ている。
しかし、ダラダラと飲んでいるわけではない。自分の役目である洗濯をしながら飲んでいる。
娘が脱ぎ捨てていった、学校のジャージも一緒に洗う。金曜日は、だいたいジャージを洗う日だ。
家事を分担しているというわけではないが、ここ数年、洗濯は私がやるようになった。職業柄、洗濯は嫌いではない。畳むのも平気。多いと面倒なのは確かだ。
YouTubeで5〜6曲聴けば洗濯は終わる。先日、渡辺真知子と八神純子のことを書いたせいか、ここ最近YouTubeのサイドバーには40年ほど前の歌が並んでいる。
やはりヤマハのポプコン繋がりの歌が多い。ちょいとマイナーだけれど、谷山浩子も嫌いではない。メルヘンチックで少し現実離れした詩が多く、また歌い方も決して上手いと言うわけではないが、妙に心に響く歌を歌う。
深夜放送を聴いていたあの頃、ラジオからは彼女の『窓』という歌がよく流れていた。「北向きの窓のすりガラス ギリシャの海も見えた」という詩が印象的だ。
GoogleのAIは、私が津軽の人間だということを見抜いているのだろうか。
谷山浩子を聴いていたYouTubeのサイドバーに、ポプコンとはまるで縁のないと思われる歌手が表示されていた。
松村和子の『帰ってこいよ』だった。
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あの頃は、津軽を題材にした歌は好きではなかった。吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」もそうだし、この「帰ってこいよ」もそうだった。
「津軽」が田舎の代名詞のように歌われているような気がした。青森の中でも「津軽」といえば「田舎者・ダサい・言葉訛り」と思われている気がしていた。
まあ、実際そうだっただろう。でも都会に憧れていた自分にとっては、どうにも苦手なジャンルの歌だった。
しかし、よく聴いてみると、松村和子はメチャ歌が上手い。高音もパワフル。けっこうロックかもしれない。ファッションも奇抜。
「津軽」を題材にしているこの歌の中には岩木山が出てきたりして、津軽人にとっては少々叙情的な詩ではあるが、歌そのものはエネルギーに満ち溢れている。
フルコーラスを聴いた私は、妙にテンションが高くなった。
安ワインを2杯飲んだせいもあったかもしれない。そのまま意気揚々と洗濯場に行き、洗濯機の蓋を開ける。
予期せぬものが私の目に映った。
大量のティッシュにまみれたジャージやTシャツたち。
声にならない唸り声が、喉の奥で鳴っている。
娘のジャージにポケットティッシュがまるまる入っていたらしい。洗濯槽から一枚ずつ取り出し、パンパンパンと宙で叩く。
白いティッシュの欠片が、床一面を覆っていた。
(帰ってこいよ〜、帰ってこ〜いよ〜、帰ってこ〜いよ〜!そしてティッシュを拾ってくれ!)
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