こいのぼり
先日、五所川原へ行く用事があり、国道7号線の藤崎あたりを走っていた。
津軽平野の遥か向こうに真白な八甲田が見えた。そういえば前の日、4月だというのに雪が降った。
青森市でも3cmほど積もったらしいから、八甲田はけっこうな積雪だったはずだ。降ったばかりの新雪は白く輝いて見える。
(さすがに青森の雪は、気が長いなあ)
美しい八甲田の山々を遠くに見ながら走っていると、いきなり目の前にデカい魚が現れた。
鯉のぼり!
(まだ4月半ば前なのに、気が早いなあ)
とは思ったが、5月ギリギリだと少しの間しか泳げない。だから早めに泳がせるのだろう。5月5日を過ぎると、なにかしら旬が過ぎた感じがするのも確かだ。
やねよりたかい こいのぼり
おおきいまごいは おとうさん
ちいさいひごいは こどもたち
おもしろそうに およいでる
ふと「こいのぼり」を口ずさむ。
五色の吹き流し、黒い鯉、赤い鯉、青い鯉。
黒いのは真鯉(まごい)だろう。そういえば、緋鯉(ひごい)って、真ん中の赤いやつだっけ?それとも一番下の青いやつなのか。
「こどもたち」と言うくらいだから、一番下の青いのが緋鯉だと思っていたが、緋鯉は真ん中の赤いやつらしい。
ググってみたら、
本来は真鯉(黒い鯉)のみであげられていたが、明治時代頃から真鯉(まごい)と緋鯉(ひごい)で揚げるようになり、昭和頃からは家族を表すものとして子鯉(青い鯉)を足したものが主流となった。
なのだそうだ。
それにしても、鯉のぼりも見なくなった。
それなりの庭がある田舎の町だと見かけることもあるが、弘前の街中だと目にすることはほとんどない。
鰺ヶ沢で育った幼少期、実家は「鰺ヶ沢温泉 山海荘」の隣にあった。
全く金持ちではなかったが、田舎なので庭があった。5月の連休が近づくと、その庭で鯉のぼりが泳いでいた。
しかし、その鯉のぼりは、近所の友達のウチで泳いでいるような色鮮やかな鯉のぼりではなかった。
友達の庭で泳いでいた鯉は、その頃、世に出回り始めたポリエステル製の色鮮やかな鯉のぼりだった。色鮮やかな鯉は、風を飲み込むと大きく膨らみ、色がさらに映える。
それに比べ、ウチの庭で泳いでいる鯉は、うまく風を飲み込むことができず、いつもペッタリとしていた。
色はくすんでいて、本来白であるべきところがベージュのような色合いで、かなり渋い。おそらく綿か絹だったのだろうか(くすみ具合からいって、綿だと思う)。
子供心に(これは、だいぶ古い鯉のぼりなのだろう)と感じていた。だから、自分のウチの庭に鯉のぼりが上がることは、嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
「周りの友達のうちで泳いでいる鯉のぼりとは違い、年季の入った価値のある鯉のぼりなのだ!」
今思い返せば、自慢できる鯉のぼりだったに違いない。
でも、子供は色鮮やかで、大きく膨らみながら泳ぐ鯉のぼりの方が良いに決まっている。
遠くに見える気の長い青森の雪と、目の前に現れた気の早い鯉のぼり。
津軽の春だ。
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