ツール・ド・ツガル / 大鰐温泉チャリグルメ紀行 〜『ロイヤル激坂』を2年ぶりに登攀ス〜
大鰐という街は、自分の好きなモノを満たしてくれる稀有な場所だ。
ロードバイク、温泉、そして美味いもの。写真も撮ろうと思えば、興味をそそる被写体があちらこちらに点在する。
弘前からは片道15kmほどと、そんなに距離があるわけではないが、温泉を楽しむ目的もあったので、ロードを車に積み込み出発した。
昨年も一度だけロイヤルの激坂に挑んだが、そのときは骨折のリハビリライドだった。
MTBにスニーカーというスタイルでは、撃沈は目に見えていた。( ⇨ ツール・ド・ツガル / リハビリライド「大鰐ロイヤル激坂」〜リフト乗り場でギブアップ )
今年も練習という練習はしていないし、10%増量サービス中である。
先日、鯵ヶ沢を往復しただけで、身体はガチガチ、ボロボロになった。
大鰐ロイヤル激坂は、麓の街から頂上までは約6km。
距離はたいしてないが、勾配はハンパない。最も急なところでは、18%ほどもある。
ヒルクライムをやらない人にとって18%という数字はピンとこないと思うが、「柔道一直線」の一条直也の必殺技『地獄車』が永遠に地獄の底まで転がり落ちていく…くらいの激坂だ。
今の自分にとって、この6kmを上りきるのは、かなり厳しい。
以前は、「脚をつかずに上りきろう」「脚をつくのは2回までにしよう」と目標を決めてトライしていた。
今回はとにかく上りきることを目標にした。
脚は何度ついても良い。10回でも20回でも良い。できれば10回までにしたいけど。
確か、九十九折のカーブが7〜8回ほどあったはずだ。そのカーブ全てで休んでも、10回の休憩で登攀できる。
とにかく脚に負担をかけぬよう、ゆっくりと上る。
タイムを競っているわけではない。
カツカレーの美味い「さかえ食堂」を過ぎると、リフト乗り場が見えてくる。
ここが一番キツい。勾配20%近くあるんじゃないだろうか。
脚が止まらぬよう、蛇行しながら走る。走るという形容はもはや当てはまらない。
1回目の休憩。
下界の街が美しく見える。まわりでは桜がちょうど良い感じに咲いていた。
昨年はここでギブアップしたが、今年はここからがスタートだ。
とにかく脚に負担をかけぬよう、ゆっくりと上る。
タイムを競っているわけではない。
しばらく上ると、ジャンプ台が見えてきた。
2回目の休憩。
疲れたわけではないが、このジャンプ台に来ると必ず立ち止まってしまう。
そういえば、今年の冬季オリンピックの女子ジャンプは悲運だった。
そういえば、高梨沙羅選手は現在弘前大学に在学と聞いたが、お会いしたことはない。
ここからが再び激坂の始まり。
とにかく脚に負担をかけぬよう、ゆっくりと上る。
タイムを競っているわけではない。
このキツい坂の向こうのカーブに少しだけ広くなっているところがある。そこまでは頑張る。
引き足を使って、なるべく大きく脚を回す。
カーブが見えてきた。
たまに蛇行しながらゆっくり上る。本当は蛇行は良くない。危ないからだ。基本はきちんと左側を走る。
カーブのところに来た。落ち着いてペダルからヴィンディングを外す。
3回目の休憩。
予定通りだ。あと7回は休める。
呼吸を整える。
耳を澄ます。
ざわざわと木々の声が聴こえる。
ゴォーと、遥か空の上に飛行機の音が聴こえる。
リスタート。
再び、引き足を使って、なるべく大きく脚を回す。
幸い、まだ脚にはキテいないようだ。この調子なら上りきれるかもしれない。
その時。
「ガチャ!!」
突如、右脚のヴィンディングが外れた。
「あぶね!」
咄嗟にロードから降りた。なんとか落車せずに済んだ。
思いがけず、4回目の休憩。
(いやあ…こんな激坂の途中で降りるのはキツいなあ)
坂がキツいとリスタートも難しい。
少し歩きながら良さそうな場所を探す。
すると、少し先に看板が見えてきた。
すいません。
もう、これ以上減速できません。
リスタートできそうな場所を見つけた。
気持ちを整えて再び走り出す。焦ることはない。
タイムを競っているのではない。
誰かと競っているのではない。
では、自分はいったい何と競っているのだろうか。
以前であれば、昨年の自分には負けたくない…という思いで激坂を上った。
しかし、岩木山ヒルクライムを目指して頑張っていた頃の自分に、今の自分が敵うはずもない。
では、何と競っているのだろうか。
今の自分である。今、この激坂を上っている自分である。
そして、競っているのではない。
対峙しているのだ。
いや、そんな大それたものでもない。
会話しているだけだ。
「おい自分。相変わらずオセエな」「おい自分。けっこう頑張ってるじゃないか」
「おい自分。こりゃ上れるぞ」「おい自分。俺らアホだな」
知らぬうちに、蛇行をせずに淡々と真っ直ぐ上っていた。
次はどこで休憩しようかなど、考えずに上っていた。
やがて、目の前に蒼く美しい空が現れた。
「ウヒョー!」
東に八甲田、西に岩木山を望む、ロイヤル激坂の山頂。
4回の休憩で辿り着くことができた。
まだ、もう少し。この先、頑張れるような気がした。
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